花が咲くまで待って

「今日は天気がいい。昼寝は外か?」
 窓から外を眺めていたベレトが、リンハルトを振り返ってそう言った。昼下がり、食後の紅茶をゆったりと嗜んでいる最中。窓枠の向こう側は確かに青空が広がり、まばゆいばかりだ。
 しかしながら、今日は孤月の節の五日。暦の上では春であると言われる頃ではあるが、残念ながら外気温は未だ晩冬と初春を行ったり来たり。つまりはまだ、外で寝るには肌寒いのである。
 リンハルトは椅子に腰掛けたまま、ほんの少し口角を下げ「まだ外は寒いでしょう」と返事をした。目を丸く見開いたベレトが「そうか?」と首を傾げる。
「貴方は比較的体温が高いから平気かもしれませんが、僕はまだこの気温じゃ外で昼寝をする気にはなりませんよ」
「んん、そうか……身体を動かせば、暖かくなるのでは」
「一過性のものでしょう、それ」
 そもそも身体を動かす、という行為自体が面倒なのだが、わかっていて言っているだろうからそこは割愛する。ただベレトが引き下がっているだけだ。
 にしても。そんなに外で寝たいものだろうか、とリンハルトは自らを棚に上げて思案する。二人きりの昼寝の時間を提案したときはあまり乗り気でなかったようにも思うのだけれど。
「珍しいですね、貴方から昼寝に誘ってくれるなんて」
「そう、かな」
「最初は渋ってたじゃないですか。貴方から外での昼寝を提案してもらえるなんて思ってもみませんでしたよ」
 空になった茶器をそっと卓上へ置けば、ベレトがそれを洗おうと手に取った。忙しない。いや、もしかするとここまでの会話から推測するに、二人での昼寝を待ち侘びて手早く片付けたいのかもしれない。
 流し台に向かって茶器を洗っているから、見えるのは背中ばかりだ。その背をぼんやりと眺めている。
「……春になったら、外で昼寝をするものだと」
「え?」
「そう、俺に教えたのは、お前だろう」
 拗ねたような、ばつの悪そうな、照れ臭さが滲むような。そんな声。顔を見なくたってわかる。
「ふふ」
 思わず小さく笑って、それからリンハルトはベレトの見ていた窓枠の向こう側へもう一度目を向けた。
 窓から見える庭先の花は、ふっくらとつぼみを膨らませている。あれが綻ぶ頃にはきっと、柔らかな木漏れ日を全身で浴びられるだろう。ベレトとリンハルト、二人が望んでいるように。